Presented by B.B.C./Biwako Bass Communications

Editorial
Vol.18(03/01/24)

事件の功罪

 地上波各局が全国ニュースで流し、新聞も一面で報じるとなれば、これは大ニュースだ。ほかでもない、滋賀県漁連会長らによる恐喝未遂事件のことなのだが、第一報が出たのがテレビは1月22日午後、新聞は同日の夕刊だった。それに続いて翌23日になっても全国紙の滋賀版や地元の京都新聞などは、このときとばかりという感じで出てくるわ出てくるわ。県や漁連のいろんな人達のコメントも伝えられていて、そのいずれもが思わず突っ込みを入れたくなってしまうものばかりである。

●京都新聞ニュース1月22日「また、滋賀県の浅田博之農政水産部長は『漁業者を代表し、琵琶湖漁業をリードする立場の人だけに、事実なら残念だ。漁業補償は漁業者にとって、正当に要求されてしかるべきものだが、恐喝という事件に用いられて遺憾。多くの漁業者や県民の信頼を回復できるよう、県漁連とも十分に協議していきたい』とコメントした。」

 「多くの漁業者や県民の信頼を回復」というのは、官僚のものの考え方がよく表れた、とても面白い表現だ。問題点は二つ。

 漁業者と県民がなんでここで一緒くたにされないといけないのか。読みようによっては「多くの漁業者や県民が、それ以外の人達からの信頼を失った。それを回復できるよう……」と理解されてしまうではないか。本当は「多くの漁業者や県民からの漁連に対する信頼を回復できるよう……」と言いたかったのではないかと思うのだが、このコメントを何回読みなおしても、信頼を回復しないといけないのが漁連なのか、あるいは漁業者や県民なのかはっきりとはわからないという悪文の見本。漁連と協議するって言ってるんだから、やっぱり信頼を回復しないといけないのは漁連だろうって、なんでこんなフォローを著者がしないといけないんだ!?

 この人が言いたかったのは「多くの漁業者や県民からの県漁連に対する信頼を回復できるよう、県漁連とも十分に協議していきたい」ということだったとしても、読んだ人がそのように理解してくれたかどうかはわからない。どっちに取るかは、読んだ人の先入観として漁業者を信頼していたかどうかにかかっているのである。さて、あなたは最初に読んだときに、どう理解されただろうか。

 この人はつまり、多くの漁業者は漁連に対する信頼を失う側であって、事件の影響をこうむる側であるということが言いたかっただけのこと。つまり、何よりもまず県の農政水産部長として一般の漁業者を庇護しようとしたわけで、その点は役人の鑑と言うべきか。それ以外に見るべき内容は何もない空疎なコメントの中で、容疑者が会長を務めた県漁連の構成員である漁業者と県民をひとくくりに並べてしまったのがそもそもの間違いである。ところが、「漁業者の信頼を回復……」とだけ言ったら、県民のことを考えてないなんてすぐに言い出す輩が大勢いる。そこで、「県民」を付け足したのだろうが、日頃考えてもいないことをやろうとするからボロが出てしまったというのが本当のところではないだろうか。

 それともう一つ。信頼を回復するっていうのは、元々信頼されてたってことが前提のはずだが、いったい誰が信頼してたのか。県農政水産部長が本当に信頼してたのだとしたら、アホだ。って言うか、官僚としては、こう言うしかないということもよくわかる。しかし、それにしても、もうちょっと言い方があろうというもの。人前でものを言うときは、日本語の勉強をしっかりしないとけない。ひょっとしたら、京都新聞が記事にするときにコメントを端折り過ぎたのかもしれない。だとしたら、日本語を勉強しないといけないのは京都新聞の方なのだが……。

●asahi.com滋賀1月23日「浅田部長は『県民から疑惑の目を向けられたことに対して、今後、漁業組織全体が県民からの信頼を回復するよう指導していきたい』という。」

 だから、信頼なんかされてないってば。それはともかく、22日のコメントとは微妙に表現がかわってきている。前日の発言に対して早くも誰かが問題点を指摘したのか。であれば、改善は素直に認めよう。あるいは、同じ発言の内容が掲載紙でかわってるだけか。だけどねー。「今後、指導していきたい」ってことは今まで実効ある指導はしてなかったということになるんだけど……。あーあ、また一つボロが出ちゃった。こうなったら、あくまでも私は信頼してたで押し通すしかない。今後の発言に注目!!

●京都新聞ニュース1月22日「県漁連の北村勇副会長は『寝耳に水。21日に、県内の各漁連の組合長が集まる会議があり、会長も出席していたが、事件に関する話は一切なかった』とし、『まず詳しい状況を把握したい』と話した。また『県漁連という組織として(会長らの逮捕事実のようなことを)やっていたことは断じてない』といい、今後は近々にも緊急の理事会を開き対応策を協議したい、とした。」

 本当に「寝耳に水」なら、この人の役回りはオウム真理教の上祐か。組合長が集まる会議で恐喝事件の話なんか出るわかないだろうが。「県漁連という組織としてやっていたことは断じてない」って? ふーん。

●asahi.com滋賀1月23日「県漁連の北村勇副会長は『県漁連としては全く関与していない。これから各組合に対して説明する必要があるだろうが、会長は容疑を否認している。今後の予定は決まっていない。外来魚に関する問題への波及が一番心配だ。漁業者だけでなく県民、行政が一体となって外来魚対策を進めているときに大問題だ』と戸惑う。」

 22日の県水産課・課長補佐のコメントに続いて、外来魚問題への波及を心配する狼狽ぶりがよく出ている。ということは、心配しないといけないようなことが、やっぱりあるわけですね。環境保護団体の皆様に置かれましては、さぞかしご心配なことで……。心中、お察し申しあげます。ついでに國松県知事も。

●asahi.com滋賀1月23日「県漁連青年会の戸田直弘会長も『(外来魚の再放流を禁止した)条例施行に向けて、漁協全体がまとまっていないとだめな時期に、何を考えているのか。漁協や漁業者全体が疑いの目でみられる』と怒る。」

 だから、前から疑われてたんだって。滋賀県警には4年も前から不当要求対策室が設置されていた。元々疑いの目で見られてたのが、ごく一部表沙汰になっただけ。それを県漁連青年会の会長が、本当に知らなかったのか。知らなかったですむ問題でもないけど、もし知らなかったふりしてるんだとしたら、この人、相当の悪党だ。って、今さらこんなこと書いても、何も目新しいことなくて、こっちが笑われるだけか?

●Kyoto Shimbun News1月23日「調べに対し、川森芳一容疑者らは『金は要求していない。誠意を見せろと言っただけ』などと供述している、という。」

 この言い回しは、まるで暴力団かその筋のプロ。ああ、そうか、県漁連の会長ということは、補償金交渉のプロの中のプロだったかと納得。その県漁連の上が全国内水面漁業協同組合総連合会で、その親玉が自民党の参議院議員で外来魚駆除の急先鋒で、というようなことをついつい考えてしまったりして……。恐喝未遂事件が滋賀県漁連会長らの個人犯罪であって、組織的事件に波及しないことを心底祈りたい。

●Kyoto Shimbun News1月23日「県琵琶湖レジャー利用適正化条例の4月施行を控え、県は外来魚駆除を担う県漁連に本年度、前年度の4倍の2億1800万円を助成している。この公金支出に『漁獲量の水増しがある』と釣り関係者が指摘し、県に監査請求している。(改行)県水産課は「チェック態勢は万全」と強調してきた。しかし今回の事件で、県の公金支出の信頼性が揺らぎかねない。」

 県の公金支出の信頼性が揺らいでいると思った県民がすでにいたから、監査請求なんてことが行われたのではなかったか。漁連や漁協に警察の家宅捜査が入ったことだし、ついでに帳簿とかもチェックしてみては? 助成金の使われ方って、チェックしたことあるのかね。「チェック態勢は万全」と強調するのは、強調しないといけない理由があるからではないのか。

 「今回の事件で、県の公金支出の信頼性が揺らぎかねない」って、何も知らない人が普通に考えれば、恐喝未遂事件と外来魚駆除に対する助成金とは何の関係もないはず。それが今回の事件報道では、どのメディアもそろったように外来魚問題や助成金の方へ話が向かってしまうのはなぜか。そのあたりのことがこれから出てくるのかどうかが、とても楽しみである。

 これ以上突っ込み続けたら、あまりにも品がなくなってしまいそうなので、本題に移ろう。今回の事件が外来魚問題にどう影響するかだが、先の監査請求と同じで、何らかの不正があったとしたら、正される方向に進むであろう。つまり、外来魚駆除の漁獲量の水増しが行われているという申し立てが通る通らないに関わらず、監査請求をしたこと自体がそのような不正を防ぐ効果はあったはずだし、助成金を受け取るだけで駆除作業がちゃんと行われていなかったとしたら、今回の事件報道により、それがちゃんと行われるようになることもあるだろう。それはそれでよいことなのだが、その分、外来魚の駆除はきっちり行われるということになるから、琵琶湖のバス達にとってはうれしくない事態である。

 外来魚駆除のための予算というのはわからないところがあって、漁師が獲った外来魚を買い上げるのに、なぜ1年間の予算を最初に決めることができるのか。最初から漁獲目標値があるのだとしたら、その分を獲ったら漁はおしまいで、先に獲った者勝ちなのか。あるいは漁業組合や個人に対する漁獲割り当てがあるのか。そのあたりのこともまったく不明というか、何も決めずに適当にやってるようにしか見えないのだが、それで年間の予算分の外来魚をどうやってきっちり獲ることができるのか、まったく不思議としか言いようがない。あるいは、漁獲目標値を超えた分については補正予算措置が執られるのか。そういうことに関する情報公開はぜひ必要だと思う。

 そうやって獲られた外来魚の中に安い在来魚をまぜて水増しを図る不正が行われているというのが監査請求の大きな理由であった。その監査請求がきっかけとなり不正が行われなくなったら、水増し分がこれからはすべて外来魚に置きかえられ、予算分の外来魚はきっちり駆除されることになるわけだ。それが本来あるべき姿だと言われればその通りなのだが、さて、今年4月から多くのバスアングラーが琵琶湖でバスを釣らなくなる分と相殺して、どのような結果とあいなるか。國松県知事が「琵琶湖の漁業は生態系と共存している」とうそぶいた、その琵琶湖の漁業者がどれぐらい外来魚を獲りつくせるものか。もし外来魚を獲りつくせるんだったら、モロコやフナを獲りつくすのもわけないはずだから、在来種が減った原因はやっぱり……と普通に考えてそういう結論になるのだが、そのあたり生態系と共存しているはずの琵琶湖の漁業者はどのようにコントロールしてるのか。いずれにしても外来魚が本当に減るのかどうか大いに気になるところである。

 ところが残念なことに、琵琶湖で釣りをしない限りバスが増えてるか減ってるかの主観的なチェックさえ不可能。その点がバスアングラーにとって問題ではある。ならば外来魚が増えてるか減ってるかを誰が調べるのか。駆除する側の県や漁業者に雇われた研究者が調べた結果がはたして信頼できるのか。減ってるにしろ増えてるにしろ、現在値がわからないものをどうやって評価するのか。在来種への影響は? 魚以外の生物への影響は? 今まで、ほとんど何のデータもなかったものをこれからどうやって評価していくのか。そのために十分な研究者はいるのか。予算は組まれているのか。その予算が無駄になる心配はないのか。そういうことをきちんとせずに、とにかく外来魚の駆除だというのでは、票のため、お金のため、利権のため、名声のため、自己満足のためと言われても仕方がない。そのことにメディアが気付き始めたから、恐喝未遂事件の報道が外来魚や助成金の問題につながっていくのではないだろうか。

 それにしても解せないのは、なぜ今このときに恐喝未遂容疑で逮捕なのかということである。素直に考えれば、証拠が固まったから逮捕に踏み切ったということなのだが、3月の世界水フォーラム、4月からのリリース禁止条例施行を控え、あまりにも影響が大き過ぎることは誰の目にも明らか。それでも、なぜ、今、このタイミングで逮捕しなければならなかったのか。次に、その理由を推測してみよう。

 一番妥当な理由として考えられるのは、それだけ重大な事件だということだ。今回の恐喝未遂だけでなく、ほかにもたくさんの余罪がありそうだから、逮捕できるときに逮捕して、それからじっくりと追求しよう。そのためには、影響があるのは致し方ない。司直がこのように判断したとすれば、よほどの重大事件だということになる。組織ぐるみ、あるいは行政や議会に追求が及ぶこともありうる。関係者のあわてふためきぶりは、そのことをわかっているからか。

 逮捕が今より遅かったらどうなるか。県漁連会長は世界水フォーラムの委員でもあり、もし同フォーラムの直前や会期中に逮捕されるようなことがあったら、環境先進県として世界に売り出そうとしている滋賀県としては恥さらしもいいところ。取り返しの付かない事態になる。だから影響の大きさだけなら今逮捕された方がましという考え方もできる。リリース禁止条例はすでに決まったことだし、今まで通り反対意見は無視して力ずくで押し切ればそれでなんとかなる。それよりも世界水フォーラムを乗り切るためには、今逮捕してもらった方がよかった。フォーラムの委員は県漁連の副会長か誰かに入れかえて、あとは何事もなかったような顔をしてやり過ごす所存か。

 もっと奥深い理由も考えられる。例えば選挙とリリース禁止条例にからんで知事と行政が漁連に借りを作った。それに乗じて漁連からの要求はエスカレートする一方で歯止めが利かなくなる。例えば外来魚駆除の予算を来年は10億円付けろだとか。その一方で、いわれのない補償金を脅し取ろうとした一件だけでなく、駆除のために捕獲した魚の水増しだとか、助成金の不正流用だとか黒い噂が絶えない。このままでは足下をすくわれるとたまりかねたのが知事であったか、はたまた行政であったかは知る由もないが、言うことを聞かすにはどうすればよいかと考えた末、きつーい一撃をお見舞いすることにした。もとより知事や行政が止めることのできない逮捕であれば、令状の執行に異存はない。できるだけ派手にやれということになる。あと残る問題は、いつ逮捕するかという一点だ。

 とまあ、フィクションを並べてみたところで見えてきたのは、次のようなことである。もちろん恐喝未遂なんてことがないに越したことはない。しかしながら、それが事実であって、いずれ逮捕されるのであれば、はたしてどのタイミングがよいか。外来魚のリリース禁止が決まって情勢がほぼ落ち着き、4月からの条例施行に向けての準備も始まった。しかも世界水フォーラムまではまだ1カ月余りある。まわりから見れば最悪のタイミングのようだが、もし逮捕を何カ月も先延ばしできないのであれば、今というタイミングはダメージを小さくするためにはベストに近いのではないだろうか。

 最後に23日の京都新聞に掲載された滋賀県警捜査員のコメントを紹介しておこう。

●Kyoto Shimbun News1月23日「4年前に『不当要求対策室』を設置した捜査二課の捜査員は『対策室の目的は当初、漁業関係者からの不当な補償要求対策だった。事件になるのは氷山の一角』と話す。」

 事件の根がどれほど深く、またどれほど広範囲に及んでいるかはわからないが、その解明はすでに司直の手にゆだねられた。できることなら、その全容を解明して、琵琶湖にかかった黒い霧を吹き払ってほしいと思う。しかしながら、そう簡単な事件でないことも事実だ。また、バスアングラーが望むような結果にはおいそれとならないとも思う。この事件がきっかけになって、外来魚のリリース禁止が撤回されるなんてこともまずないだろう。ならば何を望むか。事実を知りたいということだ。事実を知った結果、こんな人達のために琵琶湖でバスを釣ることができなくなったのかと悔しさが一段と募ることになるかもしれない。著者はそれでもかまわないと思う。それでも事実を知りたい。誰のためでもなく、自分達の将来のために。

事件の功罪・その2
Editorial Vol.19

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