琵琶湖のバスフィッシング

3月/シャローのビッグゲーム
by/B.B.C.服部宏次


バスの越冬場所であるディープのストラクチャーで釣れていたビッグバスは、毎年2月末ごろになると嘘のように釣れなくなります。それと入れかわるように3月に入ってからは、水深2m前後のシャローでスピナーベイトなどにビッグバスがヒットし始めます。そのころの琵琶湖は、まだ周囲の山々の頂上が雪に覆われたままだし、水温がはっきりと上がり始めるのは3月後半に入ってからのことです。今回は、バスアングラーが見過ごしがちなエリアとパターンの組み合わせによる3月のシャローゲームをご紹介すると同時に、あきらかにスポーニングエリアと思える場所の沖で起こるこのような現象が、いったい何を意味しているか、ということを考えてみましょう。

 典型的な真冬のストラクチャーゲームの一つである名鉄沖の導水管をめぐる釣りは、前回に詳しくご紹介しました。冬の寒い時期、風波の影響を受けにくいディープエリアにある導水管にバスは集中して付きます。ところが、例年2月中ごろまではビッグなバスがキャッチできていた導水管の同じポイントで、2月末ごろになると釣れても45cmを越えるサイズはほとんど見られなくなり、釣れる数もはっきりと少なくなってしまうという現象が起こります。

 導水管のようなはっきりとしたポイントにバスが付いているのなら、なんとか釣る方法はあるはずだ、という前提に立てば、釣れなくなったのはバスがいなくなったからだ、という結論以外には考えられません。いなくなったということは、どこかほかの場所へ行ったというのが自然な考え方だと思うんですけど、それならバスたちは、いったいどこへ行ったんでしょうか。

 導水管はシャローからディープへと連続しているストラクチャーですから、まず考えられるのは、ディープにいたバスたちが何らかの理由で導水管伝いにシャロー寄りに移動したということです。そういう仮定に立って、ポイントを導水管の水深の浅い方へ移してやってみるんですけど、残念ながら成功した試しがありません。たまには大きなのが釣れたり、何尾も釣れたりすることがあります。だけど、大きなのが釣れても、いかにも出会い頭のような釣れ方だったり、まとまって釣れ続くことがありません。真冬の間のような確実な手応えというものがなく、パターン的にこれだというものを感じ取ることができないのです。

 導水管のディープエリアでビッグバスがキャッチできなくなってからしばらくして、今度は岸にアシ原がある所の沖の水深2m前後で、50cmもあるようなバスがヒットするようになります。いかにもディープエリアで釣れなくなるのと入れかわりに、シャローで釣れ始めているように見えるぐらい、タイミング的にはピッタリなんですけど、はたしてこのバスたちは、ディープエリアから移動してきたんでしょうか。

 移動してきたと決めつけるには、データ的に不十分なものがあります。移動してきたのなら、移動の途中、つまりディープとシャローの中間で釣れてもいいようなものなんですけど、それが釣れません。また、元々シャローエリアにもいてヒットしなかっただけなのが、3月に入ってヒットするようになったという可能性もあります。

 ただし、データ的には不十分ながらも、ディープで釣れなくなるのは事実ですから、やはりバスたちの大きな動きとしては、移動していると考えるのが一番自然なようです。それなら、なぜディープとシャローの中間で釣れないのか。その理由として、次のようなことが考えられます。

■2月中ごろ、バスたちはシャローへの移動を開始する

 2月の上旬か中旬ごろから、バスたちの移動は始まります。ただし、全部のバスが団体行動のように一度に移動するのではなく、1尾々々がバラバラに、早くシャローへ行きたくなったやつから順番に移動を開始します。その結果、ディープエリアのバスはだんだんと少なくなるんですけど、それがはっきりわかるのは、かなりの数が移動してからのことになります。

 ディープとシャローの中間ではどうでしょうか。ディープから移動してきたバスが、ここを通るのは間違いないとしても、釣れるか釣れないか、はっきりとしたパターンが成立するほどになるかどうかは、ある程度のまとまった数のバスがいるかどうかということが決め手になります。そのまとまった数になるかどうかは、ディープからここへやってくるバスと、ここからシャローへ出ていくバスのプラス・マイナスで、どちらが多いかに左右されるでしょう。

 ここで例えば、バスの移動がまとまった群れで動くようなものではなく、1尾々々の移動がだらだら続くものだとして、最終的な目的地がシャローにあるのなら、一時的な増減はあるにしても、たくさんのバスがディープとシャローの中間点のどこかに集まることは、よほど魅力的なストラクチャーか何かがない限り起こらないでしょう。さらに水深3〜4mのエリアにはウィードも非常に多く、バスが導水管以外に分散してしまうことも考えられます。こういったいくつもの理由が重なった結果、移動の途中のバスを釣るのが非常に難しくなっているのではないかというのがここでの推論です。

 今の段階で結論を出すことはできません。しかし、多くのデータはディープからシャローへのバスの移動を支持しているように見えますし、そう考えた方が釣りの役に立ちそうです。それなら次の問題として、移動するバスたちの目的はいったい何なのでしょうか。これはシャローでバスが釣れるエリアをよく観察すればわかることなので、まず釣れるエリアと釣り方を説明しましょう。

 名鉄沖のシャローは、広い範囲に渡って良質のウィードが生えています。このウィードは真冬の間もしっかりと残っていて、シャローへやってきたバスたちの絶好の付き場となります。ただし、シャローのウィードならどこでも3月にビッグバスがキャッチできるというものではありません。ビッグバスがヒットしてくるスポットを簡単に説明すると、水深2m前後のウィードの岸側のエッジで、それも最後は南寄りのアシ原の正面の数カ所にしぼり込むことができます。

 名鉄のシャローは、南端の天神川尻寄りと北端の造船所寄りにアシ原があって、その中間はコンクリートブロックの護岸になっています。その広いシャローエリアの中で、まず最初にバスが釣れ始めて、しかもビッグサイズがヒットしてくるのは、南寄りのアシ原の沖のごく狭い範囲なのです。

 これは何を意味するのかというと、バスたちはやはりスポーニングエリアをめざしているのではないか、本格的なスポーニング行動には至らないまでも、その前準備的な動きとしてスポーニングエリアに近付き、シャローでエサを食いながらスポーニングの準備をしているのではないかということが考えられます。ですから、名鉄のシャローで3月にビッグバスがヒットするのは、プリスポーンのごく初期、第一段階のバスの動きが一つのパターンとなって現れているのだということができるでしょう。

■プリスポーン初期に効果的なロングビルサスペンドミノー

 次に釣り方を説明しましょう。

 3月の琵琶湖の代表的な釣り方として、ロングビルサスペンドミノーによるポンプリトリーブを第一にあげるバスアングラーは少なくありません。水深2.5mぐらいまでのエリアで、潜らせたルアーを引いては止め、引いては止めをくり返します。スポーニングを意識し始めているバスは、水温がほかよりも早く上がり始めるエリアのウィードまわりにいて、目の前でピタリと止まったミノーに反射的にアタックしてきます。

 本当にこのパターンがはまっているときの釣れ方は、フックがバスの口の中にしっかり掛かっていることは少なく、口のまわりの外側に掛かったり、背中や尻尾などに掛かっていることが多いのです。このバスの釣れ方が示しているのは、ルアーをエサとして食いにきているのではなく、外敵として排除、あるいは攻撃しようとしているらしいということです。

 本格的なスポーニングシーズンに入ると、バスは湖の浅い所にスポーニングベッドを作り、ここに産みつけられた卵を雄のバスが守ります。このときの雄バスの行動は、卵を食おうとして侵入してくるブルーギルや他の小魚を排除するために、徹底して攻撃をしかけます。スポーニングを意識し始めたバスは、卵を守っている状態でなくても攻撃的な性質が強くなり、卵を攻撃するかのようなイメージに対して反射的に攻撃を仕掛けます。

 エサとして食っているのではないから、口を使ってきても浅くくわえるだけだろうし、体当たりするようなこともあるでしょう。その結果、フックが口の中ではなく外側や背中、尻尾なんかに掛かります。そういう行動に駆り立てるイメージを作り出すのが、バスの目の前へ泳いできて、卵を狙うかのように斜め下向きにピタリと静止するロングビルサスペンドミノーなのだ、というのがこの釣りの考え方です。

 プリスポーン初期のバスをキャッチするのに、この釣りは非常に効果的です。特に琵琶湖では、早くから水温が上がりやすく適当な水深を持った南向きのマリーナなどのエリアが多くあり、バスが付くためのウィードも豊富で、この釣り方にピッタリの条件を備えたエリアがあちこちにあります。ですから、これを完璧にこなすことができれば、ソフトベイトでも釣りにくい時期に、1日に50cm前後を何尾もキャッチできるようなチャンスに何回も出合えることになります。

 ただし、それほど簡単な釣りではないことも事実です。なにしろ食ってくるのではなく、軽くくわえるか体当たりしてくるだけですから、アタリはごく軽くロッドティップに伝わってくるか、ひどいときはラインが動くだけです。これを確実にフッキングしないと、ビッグバスをキャッチすることはできないんですけど、この時期の琵琶湖で風も波もない穏やかな日というのは、たまにしかありません。ですから、これをやろうと思ったら、少なくともキャストやルアー操作が完全にできて、さらに微妙なラインコントロールやアタリをとらえる技術が必要になります。

 また、1カ所のポイントでチャンスがそう長く続くものでもありません。このパターンが本当にはまった状態は、続いてもせいぜい1週間から10日ぐらいの間で、大当たりのチャンスはその中のほんの2、3日ぐらいのものです。ですから、いつごろ、どの場所にチャンスがやってくるかということをあらかじめ知っていて、このパターンが始まったときにはすでにそこへチェックに入っていないといけません。そのような先回りした行動を取れるバスアングラーだけが、ビッグチャンスをとらえることができるのです。これを逆に言えば、釣れたと聞いたから出かけていたのでは、その時点でもうすでに遅く、パターンの一番最後の燃えカスに当たるぐらいが関の山だということになります。

■難しさはないが爆発力に欠ける3月のスピナーベイトゲーム

 これから紹介する釣り方は、ロングビルサスペンドミノーほどの爆発力はないんですけど、そのかわりテクニック的には簡単で、まぐれ当たりを期待できるという大きな利点があります。使うルアーはスピナーベイト。代表的なものとして、ここではスタンレー社の製品をあげておきますけど、別にこれでないと釣れないということはないと思います。ただし、次の点だけはこだわってください。

 ウエイトは8分の3oz前後で、水深2m前後のボトム近くをきっちりとスローリトリーブしてこれるもの。これはウエイトとか、リトリーブしたときの抵抗とか、いろんな要素があるんですけど、要はボトム近くをきっちりとトレースできて、スローリトリーブでブレードがしっかり回転してくれるものを選ぶことが大切です。

 スローリトリーブというのがどれぐらいの速度かというと、例えばクランクベイトやバイブレーションプラグではアクションが出なくなってしまうぐらいゆっくりと、スピナーベイトのブレードが回転するぎりぎりでリトリーブします。このとき、ロッドに伝わってくる感触で、ブレードが回転しているか、回転していないかが一番よくわかるのは、バイブレーションの強いコロラドのシングルブレードタイプで、使いやすいという点ではこれが最高ではないかと思います。

 スピナーベイトを使うポイントは、簡単に言ってしまえば、ウィードエリアのシャロー側のエッジ付近です。湖の岸にごく近い所は、波の影響がボトムにまで及ぶため、ある程度の水深までウィードがないのが普通です。ですから、ウィードエリアのシャロー側には、岸からウィードのエッジまでの間にスペースができています。このスペースのウィード側の端がスピナーベイトのポイントです。

 これを魚探で見ると、ウィードのエッジといっても急にウィードがなくなっているわけではなく、ボトムから立ち上がったウィードが岸に近付くにつれて、次第にまばらになっていく様子がわかります。スピナーベイトを使うのは、このウィードがまばらになりつつある途中の、なくなるかなくならないかの所です。

 名鉄のシャローの南寄りのアシ原の沖は、毎年冬になっても良質のウィードが残っているエリアなんですけど、そのシャロー側のエッジのどこかに、スピナーベイトを使うのに最適の状態のポイントが見付かります。まさにその場所で、3月始めごろからビッグバスがヒットし始めます。これはここ数年、ずっと同じ現象が起こっているので、毎年、バスはこのころになるとシャローでの活動を開始するといってもいいようです。

 名鉄沖以外では、例えば井筒ホテルの沖でも、3月にスピナーベイトでビッグバスをキャッチできるチャンスがあります。ここではポイントが名鉄のシャローのような絵に描いたようなウィードエッジではなく、大きなウィードの周辺というイメージです。ほかにもポイントはたくさんあって、良好なスポーニングエリアの沖に適当な規模のウィードがあれば、たいていスピナーベイトが使えます。

 この釣りでキャッチできるバスはサイズは見事ですが、ロングビルサスペンドミノーを使った場合のように何尾もまとまって釣れるということはまれです。これは、パターンをより深くしぼり込んだ釣りの方が爆発力があり、スピナーベイトのようにある程度広く探る釣りの場合は、このシーズンに限っては難しさはないものの、爆発力には欠ける、ということのようで、微妙ではあるんですけど、狙っている魚が違うことの表れでもあるようです。

■日照時間がバスにとってのカレンダーかもしれない

 シャローでビッグバスが釣れ始める時期は、3月の始め。琵琶湖の周囲の山々は、まだ頂上が雪で白く覆われています。水温がはっきりと上がり始めるのは、あとしばらくたってからです。

 こんな時期にバスたちは、どうしてスポーニングシーズンが近付いてきていることがわかるんでしょうか。というよりも、琵琶湖でバスを相手にゲームをしていて強く感じるのは、大きなバスほど、すでに1月ごろから、スポーニングへの準備を始めているのではないかということです。エサの食い方も積極的ですし、バスのはく製を作っている琵琶湖ランカーズの立田博さんの話では、1月には卵巣がかなり大きくなっているバスが多いそうです。

 琵琶湖の水温が1年で一番低いのは2月ですから、1月というと、まだ水温が緩やかながらも下がっていく時期です。そんなときにバスたちは、スポーニングシーズンが近付いてきていることを知って、そのための準備を始めています。時計やカレンダーを持たないバスたちが、そういった季節の動きをどうして知ることができるのでしょうか。

 これは真夏でも同じで、琵琶湖の水温が1年で一番高いのは、8月末から9月の始めにかけてなんですけど、8月20日を過ぎたころになると、毎年決まって夏の終わりを意識するかのようなバスの動きを観察できるようになります。これらは微妙な天候の変化とかをバスが感じ取っている、ということもあるとは思うんですけど、それ以外の重要な要素として、日照時間が関係しているという大胆な仮説もあります。

 日照時間というのは、生物の季節的な行動を支配する大きな要素の一つで、淡水魚の中では、アユの産卵が日照時間の変化によって起こるという例があります。アユは秋になると川を下って下流部で産卵するんですけど、そのための行動がを大きく支配するのは、夏から秋に向かって日照時間が短くなっていくことです。ですから、日照時間が短い北の地方ほどアユの産卵は早くて、逆に南の九州南部などでは産卵が遅くなります。

 このアユの産卵が日照時間以外の要素で起こるとすると、どのようなことになるでしょうか。例えば、秋は台風の季節ですけど、台風による水位の上昇がきっかけになるとしたら、台風が来ない年はアユは産卵のチャンスを逃がしてしまうかもしれません。水温の変化も、早く下がる年もあれば、なかなか下がらない年もあるでしょう。魚たちが感じることのできる自然環境の様々な要素の中で、日照時間というのは毎年同じ時期に決まったパターンの変化をくり返す、いわばカレンダーのようなものなのです。

 バスは、水位が高くても低くても、水温の上昇が早くても遅くても、毎年ほぼ同じころになると同じパターンで釣れます。これは、毎年々々の湖の状態によって、同じ場所で同じパターンが効くということではないんですけど、そのかわりのパターンが、どこかの場所でかならず見付かる、ということからも間違いないようです。

 プリスポーニングからスポーニングに向かう時期は、毎年同じ時期、同じ場所で、同じことが起こるという点で、特にこの傾向が顕著です。こういったバスの行動が、日照時間に大きく支配されていると考えれば、一応の説明はできるのです。そして、この説を前提にするなら、バスフィッシングのパターンを考えるときにも、水位とか水温とかを考える以前に、今が1年の中のどういう時期にあたるかをまず最初に考えなければならないのは、ということになるます。

次回5月号の「琵琶湖のバスフィッシング」は、本格的なスポーニングシーズンを迎えて、プリスポーンバスを確実にキャッチするための方法をご紹介します。お楽しみに。

単行本「琵琶湖のバスフィッシング」
タックルショップと書店で好評発売中
B.B.C.企画制作による書籍。Bassingかわら版に掲載されている琵琶湖関係の情報を中心に、様々なデータを収録しています。この本は全国の書店、タックルショップで販売されているほか、インターネットのオンライン通販ショップSORAIRO HOURのホームページで買うこともできます。定価は1800円です。B.B.C.の書籍代2弾「琵琶湖のバスフィッシング超データベース」も好評発売中。

琵琶湖のバスフィッシングデータベースへ戻る