Presented by B.B.C./Biwako Bass Communications

Editorial
Vol.30(03/03/18)

琵琶湖の外来魚駆除は何のためか

 琵琶湖の漁船の多くが漁業調整規則に違反する高馬力エンジンを載せていた事件の摘発により、漁船登録の取り消しや漁業認可取り消しの影響でニゴロブナやホンモロコの産卵時期が最盛期の刺し網漁が激減してることをEditorial Vol.29で報告させていただいた。これでニゴロブナやホンモロコが無事産卵できるんだったら、とてもいいことなんじゃないかと書いたのだが、なかなか物事はそう簡単にはいかない。そう思いなおさないといけないような新事実が出てきたのである。

 琵琶湖のあちこちに大小様々の新規のエリが設置されている。これまでも新しいエリが設置されることはあったし、古いエリの位置を少しずらして新しく設置しなおすこともあったが、今年ほど一度にまとめて新しいエリがあちこちに設置されるのは記憶にない。本当にあそこにもここにもという感じで、こんなに一度に増えたのは今までなかったことだと、琵琶湖で10年以上バスフィッシングをしてきたアングラーが口をそろえてそう言うのだ。

 定置網の一種であるエリを新しく設置するには、県知事の許可が必要である。小規模のものはその限りでないかもしれないが、そこそこの規模のものはもちろん新規の許可を取って設置してるのであろう。その目的は何か。今年の今の時期に急に新しくあちこちに設置されてるとなれば、その主な目的は来年度から外来魚の買い上げ予算が大幅に増えることに狙いを定めて、バスやブルーギルを獲ることであろう。しかしながら、エリは魚が仕掛け網に入ったのを取り上げる待ちの漁法だから、特定の魚だけを狙って獲ることはできない。ニゴロブナやホンモロコなども混獲される。それが刺し網などが減った分を相殺してしまわないかどうか。物事はそう簡単にはいかないと最初に書いたのは、それを心配してのことである。

 なぜ漁業者がこれほどまで熱心に外来魚を獲るのか。その理由は皆さんも推察される通り、滋賀県の予算付けにより外来魚を駆除することで安定した収入が得られるからだ。もはや琵琶湖の漁業は、その水揚げ高の数分の1を外来魚が占めているのがその実態である。食用になる魚の水揚げと、もっぱら駆除のために県が買い上げる外来魚の漁獲を一緒くたにするのもどうかと思うが、漁業者が獲った魚介類の売り上げとして考えた場合には事実上そういうことになる。

 在来魚の漁獲は、これは県や漁業者が問題にしているのが本当であれば、ニゴロブナやホンモロコは激減したあげくの下げ止まり状態。琵琶湖の漁業の最大の柱であり生産高の約半分を占めるコアユは、冷水病などの影響で評価が下がり、引く手あまたの売り手市場だった往年の面影もない。アユ釣りのための河川放流用に売れなければ佃煮など食用の消費に回すしかなく、同じコアユでも値段は大幅安となる。イサザやシジミなどは、漁獲量としては年間数10トンあるのだが、これが市場に回ると、どこで誰が食べてるのかと思ってしまうほどかすかな存在になってしまう。琵琶湖周辺で生活してる人以外が目にする機会はめったにない。リリース禁止に屈力された滋賀県知事や県会議員とその取り巻きの人達なら、京都祇園あたりの高級料亭で接待を受けたときに食されることがあるかもしれない。あるいは京都や大阪のデパートなどの地下食品売り場に入ってる高級川魚店で探せばかろうじて見付かるか。まあ、それぐらいのものだ。

 もう一つの大きな柱であるスジエビは主な消費が釣りエサ用であり、生きたまま出荷し釣具店やエサ店に流通できるルートが限られているから、誰がやっても成立する漁ではない。さらには漁獲が非常に不安定で、これほどあてにならない漁もない。ここ数年は量的になんとか横這いを維持しているが、原因不明のまま漁獲が激減したことが過去に何度もあった。釣りエサ用だから需要がシーズンに大きく左右されるにもかかわらず、スジエビは死にやすくて長期間生かしておくことができない。売れないときにどれだけたくさん獲れても、生かしておくことができないから、売れ残りは佃煮にでもするしかない。反対に、獲れば獲っただけ高値で売れるときに、思うように獲れないこともある。そういう漁である。

 そのような漁による琵琶湖の漁業者の総漁獲高が、2000年の滋賀県の統計によると約15億円。これがどれぐらいの規模かというと、例えば和歌山県の単独漁協の漁獲高が年間に多い所だと10億円前後になる。カツオ釣りで有名なすさみ漁協の漁獲高は、このところ漁獲が低迷して年間10億円を割っているが、多いときは10億円を超えていた。それとほぼ同等か、琵琶湖の方が多いとしても2倍ぐらいのもので、何倍も何10倍も多いということはない。琵琶湖全体の漁獲高というのは、それぐらいの規模なのである。

 これをバスフィッシングによる消費とくらべると、琵琶湖へ釣りに来るバスアングラーが年間に延べ70万人で、滋賀県内で1人が2000円遣ったとしたら全体で年間14億円になり、琵琶湖全体の年間の水揚げ高とほぼ同規模になる。ということは、1人3000円遣ったとして、リリース禁止になったら70%のアングラーが琵琶湖へ釣りに来ないというのが本当だったら、それで琵琶湖の漁業者が総がかりで獲ってる年間の漁獲高に匹敵する消費が消し飛んでしまうことになる。

 さらに、もう一つの比較を……。中堅どころのルアーメーカーの年間売上高が数億円。大きなメーカーだと10億円を超える。そういうメーカーが滋賀県内にもある。そんなメーカーに社員が何人いるか。現在のルアーメーカーは外部生産化が進んでいて、少ない所だと10人以内でそれだけの売り上げをこなして収益を上げ、法人税を払えと言われれば喜んでかどうかはわからないが払っている会社もある。それと大してかわらない漁獲高を上げるのに、琵琶湖全体で何人の漁業者がいるか。こういうときの集計に、ろくに漁に出てないんじゃないかと思ってしまうような色白の漁業者まで含めるのは納得できない気もするのだが、滋賀県の統計を参考にすると1000人台から1000人弱の範囲内で漸減傾向にある。

 そんな漁業生産に対して、滋賀県が注ぎ込んでる税金は総漁獲高に匹敵するかそれ以上になる。こういう税金の流れには、出所がいろいろあり、いろんな名目があって、集計がとてもややこしいのだが、一説には総額約20億円とも言われている。さらに、県水産課の職員が20人以上。つまり、生産者数1000人台、生産高10億円台の産業に10数億円から20億円もの税金を注ぎ込み、その面倒を見るのに20人以上の県職員を配置している。それが琵琶湖の漁業の実態なのだ。

 これがルアーメーカーなら、水産課職員の人数だけいれば漁業者の総漁獲高とかわらない売り上げをこなし、収益を上げて税金を払ってくれる可能性もある。ルアーメーカーだけではない、釣具店もレンタルボート店もマリーナも、この不況の中、必死でがんばって一般市民に良質の娯楽を与え、消費機会を生み出している。滋賀県はリリース禁止でそんな産業の足を思い切り引っ張る一方、漁連と漁業者には湯水のごとく税金を注ぎ込み続けている。その中には国からの税金も含まれている。同じ滋賀県内で働いてるのに、その扱いには天と地の違いがあるから、某ルアーメーカーの社長が「やってられないよ」と言うのも無理ないのである。

 滋賀県がなぜそこまでして琵琶湖の漁業を支え続けるかというと、そうでもしないと漁業という産業を維持できないからだ。つまり、魚介類を獲って売るだけでは琵琶湖の漁業は全体としてやっていけず、放っておいたら早晩のうちに破綻してしまうから、そうさせないためにいろんな名目のお金を注ぎ込み続けているのである。これはニワトリが先かタマゴが先かという話になるが、琵琶湖総合開発に代表される大小さまざまの開発に伴い、琵琶湖の漁連や漁協、漁業者に補償金が支払われてきた。さらには、漁業振興などの名目で多くの助成金が支出されている。先細りが続く漁獲をそれでなんとか補い続けるうちに、そういうお金がないともはややっていけなくなってしまったのが現在の琵琶湖の漁業の実態なのである。これは漁獲高を漁業者の人数で割り算していただければ、それではたしてやっていけるものかどうか、およそ推測していただけると思う。

 琵琶湖だけではない。海の沿岸漁業の多くも同様のジレンマに陥っている点でかわりがない。後継者不足という大問題とともに、漁業という産業全体が大きな悩みを抱え込んでしまっている。その結果、皆さんがスーパーから1尾300円で買ってきて晩御飯のおかずにしてるアジの塩焼きが、それに投入されてる税金まで計算したら実は500円にも1000円にもついてたなどというとんでもないことになってしまってるのである。

 琵琶湖では1990年代に湖岸の開発がほぼ完了し、それまでは次から次へと繰り出されていた漁業補償金の規模が大幅に縮小した。漁獲の先細り傾向はあいかわらずのところへ、それに追い討ちをかけるように河川放流用のコアユが以前のようには思い通りに売れなくなった。ならば、何を持ってそれを補うか。そこで目を付けられたのが外来魚である。県が外来魚駆除名目の予算を組んでバスやブルーギルを買い上げることにすれば、それまでは網に入っても捨てるしかなかった邪魔者が立派な漁獲対象になってお金にかわる。こういうことを考えた人物は、なかなかのアイデアマンだと思う。

 ただし、在来魚保護のための駆除と言うからには、それなりの成果を上げなければならない。つまり、駆除によって外来魚が減り、その結果、在来魚が増えてニゴロブナやホンモロコの漁獲量が増えた、あるいは資源量調査で在来魚が増えているというようなデータが出てこないと整合性が取れないのだが、いっこうにそういう数字は見えてこない。それでもなお、外来魚駆除の予算は投入し続けないといけない。その理由は先に書いた通りである。

 それならどうするか。いつまでたっても外来魚駆除の成果が上がらないのはバスアングラーがリリースしてるからに違いないということにして、とにかくリリースを禁止する。その結果が出てくるまでには何年もかかるから、とりあえずそれまでは時間かせぎができるし、その騒ぎにまぎれて外来魚駆除の成果が上がってるかどうか、在来魚が減った本当の理由は何なのかなんてことからメディアや市民の目をそらすことができる。

 そんな謀略が本当にあったかどうかは知らないが、とりあえずバスアングラーを悪者にしておけということで、外来魚よりも先に良心的なバスアングラーが琵琶湖から駆除されることになってしまった。つまり、成果の伴わない外来魚駆除予算を行使し続けるのと、バスアングラーにリリース禁止を押し付けるのは、滋賀県にとって自分達の主張を通すためにはどちらも外すことのできない抱き合わせ関係なのである。

 リリース禁止に反対する日本釣振興会を初めとする諸団体が、滋賀県に対してリリース禁止の根拠となるデータの開示を要求し説明を求めた。それに対して何の回答もなかったのは当然である。そんなデータなんかあるわけないし、データがないものを合理的に説明することなんかできるわけがないから、要求は聞いてないふりするしかなかったのだ。琵琶湖の在来魚が減ったのは外来魚が原因であるということを証明する確かなデータなんかあるわけない。もしそんなのがあるんだったら、こんな大騒ぎになる前に、とっくの昔に開示されていたであろう。

 同様に、漁業者による外来魚駆除も何らかの将来的な見通しや計画があって行われているのではない。とにかく何億円の予算を付けろ、キロなんぼで買えということで行われているのであって、これを何年、何10年続けたら駆除できるかなんて見込みは何もない。それどころか、本当に駆除してしまったら、そのための予算が降りてこなくなって、たちまち困る人が出てくる。なぜなら、今や外来魚駆除は年間漁獲高の数分の1を稼ぎ出すなくてはならない大切な仕事だからである。

 バスアングラーの多くはリリース禁止には反対だが、外来魚を一切駆除するなと言ってるわけではない。リリースしながらでも外来魚を減らすことは可能だし、バスとブルーギルをどんな割合で、どれぐらいまで減らせば在来魚の資源量を回復させることができるか、そのときにバスフィッシングを楽しむことは可能かどうかということを説明してほしいと思っているはずだ。ある程度のところまで外来魚の量を押さえ込んで、そのときになかなか釣れなくてもバスフィッシングを楽しむことが可能なら、それで納得するバスアングラーは少なくないと思う。外来魚をゼロに近くなるまで減らさないと在来魚の資源量を保てない、そのときにはバスフィッシングは成立しないと合理的に説明されれば、それは仕方のないことだから、そうなるまでの間だけでも今まで通りリリースすることを認めながらバスフィッシングを続けさせてほしいということになるかもしれない。

 あるいは、最低限バスフィッシングが成立するだけの量のバスは残し、その分の在来魚のロスは稚魚放流などを増やすことで補うという方法も考えられる。そのための費用の一部を何らかの方法でバスアングラーから徴収するようにすれば、その方が在来魚の資源量を回復させるのに役に立つし、よほど現実的な方法かもしれない。そういう方策は何もなく、おまけに納得できる説明もできないのでは、次から次へと環境と資源を食いつぶしていってる環境政策と漁業政策のスケープゴートとしてバスアングラーを悪者するためのリリース禁止だと言われても仕方ないのではないだろうか。

 それでも滋賀県がリリース禁止を押し通すのは何のためか。あくまでバスアングラーを悪者にするためのリリース禁止であるなら、その裏側にあるのは何が何でも外来魚駆除予算を支出するという滋賀県政と漁連、漁協、漁業者に共通の目標にほかならない。つまり、在来魚の保護などは後から付いてくる二次的な目的であって、本来の目的は漁連や漁協、漁業者に外来魚駆除予算を与えることでしかない。滋賀県は民主主義のルールを犯してまでもバスのリリース禁止を強行した。その事実と照らし合わせることで見えてくる琵琶湖の外来魚駆除の本当の目的は、在来魚の保護などでは決してないのである。

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