Presented by B.B.C./Biwako Bass Communications

Editorial
Vol.27(03/03/05)

全釣り協をお忘れじゃありませんか

 全日本釣り団体協議会(全釣り協、http://www.zenturi-jofi.or.jp/)という社団法人がある。バスアングラーの皆さんの記憶に新しいところでは、バスの完全駆除に反対し日本国内にバス釣りができるフィールドを残してほしいという100万人署名運動を日本釣振興会と協力して展開し、農林水産省に提出した。それ以外は、どこで何をしているのかさっぱりわからないというのが、一般のアングラーの皆さんのごく普通の認識ではなかろうか。

 全釣り協のホームページには次のような記述がある。

(社)全日本釣り団体協議会とは
 農林水産省を主務官庁として昭和46年に発足。釣り人と行政をつなぐ唯一の窓口。釣りの健全な発展と漁場利用問題の解決、漁業関係法規の周知、自然環境の保全、水産資源の保護などを目的とする。行政と釣り人を結ぶ唯一の公式団体として全国的に釣り場清掃活動、稚魚放流活動、漁場利用知識普及講習会、青少年釣り大会などの活動を実施。あわせて、釣り人の地位向上、環境を守りながら釣りを楽しむための釣りの未来への方向付けなど、さまざまなムーブメントを展開している。

 つまり、全国に1600万人いると言われる釣り人にかわって行政にご意見申しあげる唯一の代表組織として、農林水産省(当時は水産庁)を主務官庁として発足したのが全釣り協だ。その名称の「釣り団体協議会」という部分が意味するところは、いろんな釣り団体の代表者が集まって協議し、そこでまとまったものを全釣り人の意見とするということである。

 なぜこういう組織が設けられたかというと、ちょうどその発足当時、全国のあちこちの海域で漁業者と遊漁者のトラブルが起こっていた。具体例をあげると、漁師の船が集まって釣りをしている所へ釣り人のマイボートが割り込んでいってトラブルを起こす、磯釣りをしている目の前で漁船が違法の網入れをするなどの事例が各地で頻発した。そこで水産庁が漁業調整規則を現状に合わせて整備する一方、話し合いの場を設けて漁業者と釣り人の調整を図ろうとしたのだが、釣り人を代表して意見を述べる組織というのが全国どこを探してもなかった。磯釣り、投げ釣り、船釣り、防波堤釣りなどのジャンル別に、それぞれの釣りクラブが組織化されて全国レベルの連盟ができていたが、その連盟が例えば磯釣りなら全日本磯釣り連盟と全関西磯釣り連盟、九州磯釣り連盟は別組織でつながりがない。他の釣りジャンルにも、それぞれいくつかの連盟があり、その連盟同士の関係が複雑で、仲がよかったり悪かったりする。どことどことは言わないが、犬猿の仲の連盟もあったりなんかして、それが大同団結して協議機関を作り代表者を送り出すというのは並大抵の技ではなかった。

 一方の水産庁にも背に腹はかえられない事情があった。各都道府県に漁業調整委員会を設けて漁業調整規則を審議するのに、釣り人の代表者を入れないといけない。その代表者をどこから連れてくるのかというときに、すべての釣り人が形の上だけでも一つにまとまって代表者を送り出してくれる組織が必要だったのである。でないと、どこの連盟から代表者を引っ張ってきても、他の連盟に所属する釣りクラブの会員からすれば、そんな人は自分達の代表じゃないということになってしまう。そこで水産庁が、各釣り組織の代表者などと慎重な協議を重ねた末、各都道府県の釣り団体協議会を組織し、それを束ねて全釣り協とした。ホームページの説明に「釣り人と行政をつなぐ唯一の窓口」とあるのは、そんな組織がいくつもあったらややこしいからで、まさにその唯一の釣り人の代表組織として存在するのが全釣り協なのである。

 そのような設立の主旨から、全釣り協は漁業調整委員会に釣り人代表を出すための組織という役割が大きな部分を占める。それともう一つ、1992年から水産庁の助成金を得て始まった釣りインストラクター制度というのがあって、その養成と資格試験の実施、登録、各地で行われるイベントへの派遣という事業を運営している。この釣りインストラクター制度が始まったことで、釣り人の代表組織としての全釣り協の性格が大きくかわったという問題があるが、その点は後述しよう。ほかに釣り場環境の保全や魚類資源保護、釣りに関する様々な啓蒙活動なども行っているが、これらは他の団体でもやっていることであり、全釣り協の活動としては補助的、派生的なものと考えられる。

 つまり、全釣り協の大きな役割の一つが各都道府県の漁業調整委員会に釣り人代表を出すことで、滋賀県なら滋賀県釣り団体協議会が代表者を出しているはずなのだが、ここに大きな問題がある。滋賀釣り協はあるにはあるが、実際には活動停止状態で、滋賀県海区漁業調整委員会と滋賀県内水面漁業調整委員会に釣り人代表を出すという釣り協としてもっとも中心的な役割を果たせていないのである。

 例えば、琵琶湖の漁船の多くが漁業調整規則に違反する高馬力エンジンを搭載していた事件に関して、現在の漁業調整規則は琵琶湖の漁の現状に合っていないという発言が一部にあった。それなら漁業調整規則を改定して今より大きなエンジンを載せられるようにしようということになったときに、漁業調整委員会に釣り人代表が出ていないと、その意見はまったく反映されないことになってしまう。ただでさえ漁業調整委員会というのは漁業者やその利権の代弁者でしかない学識経験者などが多数を占めていて、釣り人の代表というのは圧倒的少数でしかない。たとえそうだとしても、有効な役割を果たすことができる釣り人代表が出席し、一般の釣り人の意見を踏まえた上での議論が行われるのでなければ、そんな委員会なんかあってもなくても同じこと。何でもかんでも漁業者の思い通りに決められることになってしまう。

 そんな現状を受けて、滋賀釣り協を再整備しようという動きが出てきた。ところがである。滋賀県で圧倒的多数を占めるのはバスアングラーであるはずなのだが、その代表者は誰かとなったときに、バスアングラーの組織というのが本当に何もなくて代表者を選びようがないのである。

 釣り協というのは、海なし県の滋賀であっても、磯釣りや投げ釣り、防波堤釣りなどのクラブや連盟があれば、その代表者が出てきてかまわない。もちろん、ヘラブナ釣りやコイ釣り、渓流、アユ釣りなども同様だ。全国規模のバストーナメント団体なら、まず滋賀支部か琵琶湖支部を設けて、その代表者を出席させることになる。岸釣りアングラーの組織の代表者も参加できる。マリーナの会員がクラブを作って、そのクラブがいくつか集まって連盟を組織し、代表者を送り込んでもよい。ゴミ拾いのグループがいくつか集まって、その代表者が参加するのも歓迎されるだろう。そのような様々な釣り団体の代表者が集まり、釣り場で起こるいろんな問題について協議する場が釣り協なのである。

 滋賀県が「滋賀県琵琶湖のレジャー利用の適正化に関する条例」の要綱案を作成したときの審議委員会に出ていたのは、日本釣振興会滋賀県支部の役員であった。日釣振は釣り関係の業者の団体であり、その代表者は釣り人の代表ではない。本来なら滋賀釣り協が代表者を送り込むべきなのだが、先に説明した通り滋賀釣り協にはその能力がなかった。さらに問題なのは、もし滋賀釣り協の代表者が審議会に出席していたとしても、バスアングラーの代表が参加していない滋賀釣り協の代表では、リリース禁止の撤回につながるような何らかの有効な議論ができたとはとても思えないことだ。つまり、リリース禁止条例の要綱案が審議され、公表されてから県議会で可決成立に至るプロセスの中で、琵琶湖のバスアングラーや滋賀県の釣り人の代表が意見を述べる機会は事実上なかった。なぜなら、それにふさわしい機構や組織が存在しなかったからである。その結果、バスアングラーの意見を県側に伝えるには、日釣振の下部組織であり加藤誠司プロが実行委員長を務める琵琶湖バス釣り人協議会が意見書を提出するというような曲がりくねった方法を取る以外になかったのである。

 アングラーの政治意識が盛り上がっている今というタイミングは、滋賀釣り協の再整備には悪くないかもしれない。リリース禁止条例が成立し、間もなく施行されようとしている今となっては、すでに手遅れの感は否めないが、こういうときでなければできなかったというのも事実であろう。ただし、こういう組織をまとめ上げるには時間がかかる。バスアングラーの皆さんも、今からでも遅くはない。友人や知り合いとバスフィッシングチームや釣りクラブを作り、仲のよいチームやクラブが集まって連盟を結成して、代表者を釣り協に送り込んでほしい。そうしないと、皆さんの意見はいつまでたっても政治や行政に反映されないままだ。数だけ集めて何の効果もなかった署名なんかよりも、こっちの方がよっぽど有効な手段であることを申し添えておこう。

 その全釣り協が、滋賀釣り協の例に見られるように、このところ元気がない。だから日釣振に頼らないといけなようなことになるのだが、これには釣りインストラクター制度の導入が強く影響していると著者は思っている。釣りインストラクター制度というのは、詳しくは全釣り協のホームページなどをごらんいただきたいのだが、まあ平たく言えば、農林水産省から助成金をもらい、個人や釣り組織からは受講料、受験料、登録料などを集めて釣りインストラクターを養成、登録し、各イベントに派遣する事業だ。事業と言うからには、お金の動きと仕事が発生することになる。

 全釣り協というのは、元々は各釣り連盟や釣りクラブの偉いさんが、好きな釣りと会員のためにボランティアで会議に出席したり、いろんなイベントに出かけていって啓蒙活動を行ったりしていた。費用の多くは持ち出しで、損はあっても得はないという仕事である。そこへ釣りインストラクター制度が導入されたことで、一部で仕事や報酬が発生してくる。それを目当てに参加してくる人もいれば、利権や縄張り争いも起こる。それでも好きな釣りのために、しんどいばかりの持ち出し仕事でもがんばってる人達が今でもいるが、若いアングラーのクラブ離れやトーナメント指向などもあって、釣りクラブそのものが弱体化している現状の中では、釣り協の力が弱くなるのは当然のことである。

 その結果、滋賀釣り協のようなことになるのだが、ひるがえってバスフィッシングの世界のことを考えると、最初からそんな組織もなければ、好きなバスフィッシングのために我が身を粉にして活動してるアングラーもほとんどいないではないか。そこにあるのはコマーシャリズムや名誉欲、利権など、好きなバスフィッシングのためやバスアングラーのために活動するのとは180度正反対の人間の欲望そのものである。そんな欲望にからめとられたバスフィッシングの世界から民主的手続きの元に代表者を出すことができるかどうか。滋賀釣り協の再構築というのは、日本のバスフィッシングの将来を占う上でとても意味のある一つの壮大な実験である。もし成功すれば、バスフィッシングの将来に少しは希望が持てるというものではないだろうか。

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