Presented by B.B.C./Biwako Bass Communications

Editorial
Vol.26(03/02/28)

琵琶湖のバストーナメントはどうなるか

 とあるマリーナのスタッフが、4月1日以降もバスフィッシングを続けるにあたって、マリーナの桟橋に隣接してイケスを設置し、お客さんが釣ってきたバスやブルーギルを一時キープすることを考えた。その処理についてリリース禁止条例の運用を担当する滋賀県環境課に問い合わせたところ、現時点では回収などの個別の要望には応じられないと言う。それなら、集まった外来魚の処分はどうすればよいかとの重ねての質問に対し、「おまかせします」との返事だった。これは実際にそういう問い合わせをした人物から聞いた話だ。

 「おまかせします」とは、いかにもお役人的な回答である。県としては、そういう要望に対する準備はまだできてないし、対応するともしないとも決まっていない。だから、こうしてくださいと具体的に答えることができない。どうなるか何の見通しもないものを「対応が決まるまでしばらくお待ちください」とは、担当者としても言えない。しばらく待たされたあげく、結局は何もしてくれなかったということになる可能性も大いにあるからだ。

 ならば問い合わせを受けた担当者としては、「おまかせします」と言うしかない。イケスからすくい取った魚を琵琶湖の各所に設置された回収ボックスの所までわざわざ持って行って入れるか、どこかに穴を掘って埋めるか、闇にまぎれて捨てるか、あるいは誰にも見られないようにイケスから逃がすか、ここまですると条例違反だが、とにかく処置は「おまかせします」なのである。バスアングラーが釣った外来魚を県に引き取ってほしいと言ってるのに、今なおこの対応では、県は外来魚の駆除をどこまで本気でやる気があるのかと思ってしまう。漁業者に何億円もの駆除予算を与える口実作りのために、琵琶湖の環境保全という錦の御旗を振りかざし、その一環としてリリース禁止を決めたと言われても仕方がない。

 そういうバスアングラーの側からの要望や提案は体よく無視する一方で、メディアや一般市民向けのパフォーマンス的な事業計画は着々と進んでいるようである。県は4月から外来魚の回収と処理を障害者共同作業所に委託することを決め、それと同時に、外来魚を県の外郭団体が発行する商品券と引き換える実験事業も始める計画だそうだ。

 外来魚を処理するのは、社会福祉法人が琵琶湖東岸に新設する共同作業所で、障害者を5人ほど雇用し、県が設置する回収ボックスやイケスから回収した外来魚を堆肥化し、当面は作業所周辺の農地で肥料として活用する。外来魚と商品券の交換は、レンタルボート店や漁協など数カ所に引き換え所を設置し、県の外郭団体に業務委託して発行された引換券と交換する。外来魚1kgを200円相当の引換券1枚と交換し、県内約20カ所の協力店などで利用できるようにする。引き換え所に持ち込まれた外来魚の回収は、共同作業所に依頼する予定だ。

 こうなってくると、琵琶湖の外来魚駆除がますます公共事業の様相を帯びてきた。「社会福祉法人が新設する共同作業所」「県の外郭団体に業務委託」などなど、いよいよ正体が見えてきたという感じだ。これって、天下り法人を新設したり、予算を増やすという話ではないのか。こういう話はトントン拍子で進むのに、マリーナがイケスを作って外来魚を集めるから、それを引き取りに来てほしいと要望しても、木で鼻をくくったような返事しか帰ってこない。それが滋賀県がやってることの実態である。

 共同作業所に雇用された5人が外来魚を堆肥化し、作業所周辺の農地で肥料として活用したところで、年間何100トンと漁獲される外来魚のうちどれぐらいが処理できるのか。手間暇かけて発行した引換券を外来魚と交換するなんて無駄なことするよりも、規模の大きなトーナメントではバスを駆除するかわりに一般のアングラーのリリースは認めるという琵琶湖バス釣り人協議会の提案を受け入れた方がよほどよかったのではないか。今さらこんな茶番が出てくるとは、滋賀県もよほど知恵がなく困っておられるらしい。とりあえず反対意見をかわすためにメディア向け、一般市民向けに何かしないといけないという意図がまる見えで、笑い話にもならないとはこのことである。

 マリーナがイケスを作って外来魚をキープしようというのは、それでなんとかバスフィッシングを続けられないか、そのマリーナで開催しているプライベートトーナメントを続けられないかと思案してのことである。魚の処分をどうするかはさておき、なんとかしてバスフィッシングを続けよう、トーナメントを続けようと考えたときに、今まで通り釣れるだけ釣るというやり方は改めるにしても、最低限釣ってしまったバスやブルーギルは条例に従う限りリリースできない。それなら持ち帰ってイケスにキープし、それをなんとかできる方法はないかということで滋賀県に問い合わせた。その結果は、今のところ県では何の対応もできないという返事で、県に処理してもらうという選択肢はなくなった。いつかは対応してくれるようになるかもしれないし、そのための準備はすでに始まっているかもしれないのだが、今は県に何かを期待するのは無理なようである。

 それならどうするか。キープした魚をどこか別の場所へ運んで放流するという方法が考えられる。それには、外来魚の県外への持ち出し許可が必要。その許可を出すのは滋賀県知事。もちろん、受け入れ側が外来魚を放流しても問題ない水域であることが必須条件である。例えばバスの漁業権が認められた山梨県の河口湖や山中湖、神奈川県の芦ノ湖への放流を前提に琵琶湖で釣ったバスを運び出すことは、滋賀県知事の持ち出し許可を得れば可能だ。受け入れ先がブルーギルも引き取ってくれるかどうかはわからない。バスは移して、ブルーギルは処分することになるかもしれない。

 この方法の最大の問題点として、外来魚駆除派の権化である県知事が持ち出し許可なんか絶対に出さないだろうと、ほんの少し前まで言われていた。そんな情勢が、リリース禁止に対するバスアングラーからの猛烈な反対や、各種団体による訴えかけによってかわりつつあるのではないかという見方がある。ある事情通は、リリース禁止で大きな影響を受ける業者が多数存在することは知事や行政もよくわかっているから、条件さえ整えば許可は出るのではないかと言う。それなら、バスの運び出しを前提とすれば、トーナメントの開催が可能になる。プライベートの釣りも、マリーナやレンタルボート店のイケスに魚をキープしておいて、まとまった時点で運び出す方法を取ることができる。やってみる価値はあるし、十分現実的な方法かもしれないのである。

 ただし、これは琵琶湖という水域だけを考えれば、バスを駆除するのも、ほかへ運び出すのも、バスが減るという結果だけを見れば同じことになる。いずれ琵琶湖でバスの放流が認められたときに、持ち出した先から帰してもらうというような約束事がなければ、アングラーの気持ちの問題として殺したか殺さなかったかというだけで、琵琶湖のバスが減ることにかわりはない。その点をどうクリアするかが問題だ。

 リリース禁止の琵琶湖でバスフィッシングを残すためにやっていると言うのであれば、例えばトーナメントなら、今までと同じ頻度、同じ人数で大々的に開催して、釣れるだけ釣ってくるというのはいかがなものだろうか。リリースを禁止された一般アングラーの心情として、とても認められることではないと思う。これでは単にお金儲けや利権のためであって、バスの運び出しは体面を繕うためのまやかしと言われても仕方がない。

 ならば、どんな方法を取るのが適切か。例えば、釣ったバスをリリースしても2割は死ぬというような確かなデータがあるのなら、その範囲内で今までの2割だけしか釣らないようにトーナメントの規模や回数、ルールなどを調整し、そのことをちゃんと説明してデータも公表する。または、釣ってくるバスの量で8割に相当するトーナメントをやめて、残り2割に相当するトップアングラーのトーナメントだけを残す。そんなやり方なら、一般のアングラーからも、ある程度は認められるのではなかろうか。

 そういう工夫を何もしないで、ただ今まで通りトーナメントを開催する。そのときに釣れたバスは、持ち出すか駆除するというのでは、あまりにも知恵がなさ過ぎる。リリース禁止後のトーナメント開催に関して様々な情報が流れ始めているが、トーナメントルールなどはリリース禁止の実状に合わせた最小限のことが発表されているに過ぎない。開催者はとりあえずリリース禁止以降しばらくの間は様子を見て、実際に開催するときにどんな方法を取るのがよいか見極めようとしているところだろう。持ち出し許可のことなど、まだ蓋を開けてみないとわからない要素が多いのだから、あわてて決める必要はない。注意深く様子を見続けながら、できるだけの多くの知恵を結集することが必要である。

 参加者全員がフィッシングガイドとして遊漁船登録すれば、リリースも合法だから、何の問題もなくトーナメントを開催することができる。これも一つの方法だろう。しかしながら、リリースを禁止された一般アングラーが置き去りにされるという問題はあいかわらず残る。その点のケアを絶対に欠かしてはいけない。

 知事の持ち出し許可を得てどこかへバスを運び出すトーナメントを開催するときは、同時に岸釣りアングラーを集めたトーナメントも行い、その人達が釣ってきたバスも責任を持って運び出す。それで釣りをするチャンスができれば、一般のアングラーも喜ぶかもしれないし、それぐらいのことはしないと主催者の見識が問われるというもの。

 著者はすでにリリース禁止の琵琶湖ではバスフィッシングをしないことを表明しているが、同様の考えのアングラーでも、こういうチャンスがあれば、たまには琵琶湖で釣りをしてもよいのではないだろうか。今までの10回が1回になるかもしれないし、それぐらいのバスをほかへ運び出しても大勢に影響はなかろう。これぐらいのことは許されるべきだし、そういう釣りを続けながらリリース禁止に反対する何らかの働きかけを続けていく方が、現実的に長続きもして効果が上がるのではないだろうか。

 そのための受け皿をトーナメントの場に設けるぐらいのことは、決して実現不可能でも難しいことでもないはず。有力なトーナメント団体がリリースを禁止の琵琶湖でトーナメントを開催するのなら、一般アングラーのためにそれぐらいの努力はしてほしい。組織力や実行力のあるトーナメント団体が率先してそういうことをすれば、小規模トーナメントやプライベートトーナメントの開催をどうしようかというときの参考になるし、主催者を力付けることもできるはずである。

 そのようにしてプラス方向の連鎖が広がっていけばよいのだが、実際のところは小さなトーナメントの主催者がまじめに考えているのに、大きなトーナメントの方は成り行きまかせだったりする。現実の物事は、なかなか理想通りには進まない。図体がでかくなればなるほど、上からの指示がないと何も動かないし、反応も鈍い。いったん決まったことが、ある日突然何かの都合でかわったりもする。そんな環境が長い間続くと、自然のうちに保身が蔓延するのは釣りの世界も大企業やお役所も同じである。バスアングラーの中にも往々にして「おまかせします」という態度が見られるのは、そういう長い物には巻かれろ主義が連綿と続いてきた影響が色濃いのではないかと著者は思っている。

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