Presented by B.B.C./Biwako Bass Communications

Editorial
Vol.11(02/12/09)

琵琶湖ですでに起こっていること

 滋賀県内の小学校で先生をしているバスアングラーと話をした。彼は自分が務めている学校の生徒と一緒にバス釣りをして、釣った魚をリリースする行為を通じて本当に自然を大切にするとはどういうことなのかを教えていた。それが来年4月からは滋賀県条例に違反する行為になる。今まで生徒に教えてきたことが条例違反になるのをどのように説明すればよいのか。生徒と一緒にバス釣りに行くのをやめた方がよいのか。これは彼と彼の生徒にとってはすでに起こっている具体的な問題である。

 子供と一緒に琵琶湖へバス釣りに来ていたお父さんのうち、ある人は琵琶湖へ行くのをやめて他の釣り場へ行くという。別のお父さんは、子供と一緒に行くときは、できるだけバス釣りを避けて、トラウトなどを釣りに行くという。それでも問題は残る。琵琶湖へバス釣りに行きたいと子供からせがまれたときはどうするか。琵琶湖へ行かない理由をどう説明するか。これもお父さんにとってはすでに起こっている問題である。

 11月23日に南浜漁港で開催された第8回クリーンアップ琵琶湖に参加したときに、主催者である中部釣り場とマナーを守る会のメンバーに来年からの開催をどうするか聞いてみた。バスのリリースが禁止になる来年4月以降、釣り場がどのような状態になるか、まったく予想がつかない。何が起こるかわからないし、今まで通りゴミ拾いができる保証もない。条例を守らないアングラーが続出して地元の人達の感情が悪化し、ゴミ拾いに協力してもらえなくなる可能性だってある。そんな最悪の事態にならないと誰が言えるだろうか。もしそうなったら、これまでのゴミ拾いの努力は水の泡だから、できるだけ続ける努力はしつつも、何が起こるかわからないから慎重に様子を見続ける以外に方法はないし、今は何も決められない。とりあえずは、そういう方針で用心深く進めるとのことであった。

 琵琶湖にはバスボートを何10隻も保管しているマリーナがたくさんある。バス釣り専門のレンタルボート店も多数ある。そのお客さんがバス釣りに出て、釣れたバスを条例に従ってリリースせずに持ち帰った場合どうするか。まとめて保管しておいて生ゴミの日に出すのか、あるいはお客さんの責任で処分してもらうように言うのか。リリース禁止条例を制定した滋賀県は、自分達の都合のよい所に回収ボックスやイケスを設置すると言うだけで、マリーナやレンタルボート店の存在は無視したままである。これまでさんざん意見を無視し続けてきたアングラーに対して、あなた達の便利のよい所に回収ボックスを設置するから協力してくれなんて今さら口が裂けても言えないし、回収ボックスにしてもイケスにしても、どのみち回収業者や漁協の利権がらみだから、アングラーが望むところに設置される可能性なんかあるわけない。それならどうするか。マリーナ、レンタルボート店の経営者やスタッフにとっては、すぐにでも対策を考えておかないと来年4月なんてすぐにやってくる。これまた当事者にとっては困った問題である。

 琵琶湖周辺の釣具店の売り上げが落ち込んでいる。マリーナからは次々とボートが抜けていく。レンタルボートの利用も少ない。フィッシングガイドのお客さんが激減して、ガイドだけでは食べていけなくなってしまった若いアングラーが何人も出始めている。もちろんバスボートなんか売れっこない。中古艇の価格もガタ落ちしている。これらすべて来年4月からのリリース禁止の影響ですでに起こっていることである。バス釣りブームが去ったことや、2サイクルエンジンの使用禁止などの問題もあるから、リリース禁止の影響だけとは言えないかもしれないが、やはり最大の影響はリリース禁止から来ていると、普通に考えてそう判断せざるを得ない。そうじゃないと言うのは、リリース禁止の影響を過小評価したい人達だけであろう。

 すでにこういう問題が起こっているにもかかわらず、そんなことはないと言い続けるのは、これはもはや詐欺、ペテンのたぐいである。無知な人達にしか通じない低次元の詐欺やペテンのために、すでに起こり始めている問題をないことにされている人達はたまったものではない。それなら、どうするか。できうる限りの手段を使って一つ一つの事実を明るみに出す努力をしなければならない。

 例えば上のような写真。漁港に廃船が捨てっぱなしにしてある。漁師が獲った魚のうち、いらないものは捨てている。こういうのを見たら、その場で写真を撮って新聞や雑誌に投稿する。新聞や雑誌が簡単に味方になってくれるなんて甘い期待は持たない方がいいが、100回も送れば1回ぐらいは何かで引っ掛かって掲載されたり取材の対象になることがあるかもしれない。もし、そうならなかったとしても、最低限の収穫として、そのメディアの正体はそういうものだということがわかる。こういう細かいことから大きなことまで大勢がやれば、少しは風向きをかえることができるのではないだろうか。

 さて、前回のEditorial Vol.10で書いた来年4月からどうするかという問題にからんで、「著者自身はどうしようと思っているのか」というご質問を何件かいただいた。その回答を書いておこう。

 琵琶湖で釣ったバスのリリース禁止が決まった以上、1アングラーとしての著者は来年4月以降、よほどの事情がない限り琵琶湖でバス釣りをすることはないだろう。著者は仕事でバスを釣る立場にはなく、条例でリリースが禁止された琵琶湖で無理してまでバスを釣らなくても仕事上の影響は何もない。そういう立場にある著者には、ほかに選択肢はないと考える。ただし、だからといって仕事でバスを釣っている人達にもやめてほしいと言うつもりはまったくない。1人1人のアングラーがどうするかは、あくまでそのアングラーが自分の置かれた環境をよく考えて結論を出すべき問題であるというのが著者の考えである。

 バスを釣らないだけでなく、著者はすでに滋賀県内でお金を使うことをできるだけ避けるようにし始めた。滋賀県にいるときにものを食べたり、車にガソリンを入れるのは仕方ないが、物を買うのはなるべく他府県に出てからにする。昨日も車のタイヤを入れかえたかったのだが、滋賀県内のガソリンスタンドではエアを入れ増しするだけにして、後日他府県で入れかえることにした。毎月5日発売の雑誌ボートクラブも滋賀県内にいた12月5日に買うのはがまんした。滋賀県内の地方銀行に預けていたお金を他府県の銀行に移しかえて、引き下ろすときに何か言われたら「バスのリリース禁止を決めた滋賀県の銀行にはお金を置いておきたくない!!」とか何とか言いたかったが、これは残高が移しかえるほどもなくてできなかった。

 琵琶湖へバス釣りに来てた人が来年4月から来なくなったら釣具店やレンタルボート店などが困る。買い物をしなくなったらコンビニやお弁当屋さんが困る。ガソリンを入れなくなったらガソリンスタンドが困る。そんなことを言われるかもしれないが、今さら困ると言われても、こっちが困ってしまうだけである。困るというようなことを言うのは、来なくなった人に対してではなく、来なくなる原因を作った人達に向かって大きな声ではっきりと言うべきだ。そういう努力を条例が成立する前に本気でしたかどうか、今になって困ると言ってる人達は胸に手を当ててよく考えていただきたい。

 釣具店はどうすべきか。自分達の仕事が消えてなくなってもよいと滋賀県が判断したのだから、そんな県とはおさらばして、さっさと店を他府県へ移すべきだというのが正論であろう。こういうことを言うと、「ひどいことを平気で言う」などとすぐに言われるのだが、あえて批判を恐れずに言うと、琵琶湖周辺に残ってほしいとアングラーが望む釣具店が何軒あるか。そういうアングラーに望まれるような釣具店は、特に困ってないのではないか。もし困ったとしても、そのときはアングラーが救いの手を差し伸べるのではないか。そういう釣具店だけが琵琶湖周辺に残れば、それでよいのではないか。

 日本釣り振興会滋賀県支部を支持してたのはいったい誰か。その日釣振滋賀支部が大量に作ってばらまいてたゴミ袋には、バスはキャッチして食べようと書いてなかったか。「滋賀県琵琶湖のレジャー利用の適正化に関する条例」を制定するための委員会にアングラーの代表として出てたのは日釣振滋賀支部の幹部だったはずだが、前記のようなことをやってる日釣振滋賀支部から代表者が出ていったい何をしたのか。

 琵琶湖に立地しているレンタルボート店はどうするか。滋賀県に住んでいるバスアングラーはどうするか。琵琶湖でバス釣りをしたいがために関東から京都へ進学した大学生を知っているが、彼はどうしたらいいのか。簡単に結論を出せない問題は、ほかにもたくさんある。あるいは最初から正解なんかないのかもしれないが、それでも少しでも正解に近付く努力はしなければならない。そのために本連載が少しでも役に立てば幸いである。

 今こそインターネットの精神に立ち返って、ウエブ上で利用できるものは皆で大いに利用し合うべきだ。そう思うから、何かの役に立ちそうだと著者が思う情報については、なるべくアクセス制限をかけないでBassingかわら版内に掲載するようにしている。サポートメンバーの皆さんからすれば、自分達はちゃんと会費を払ってメンバーになってるのに、ただ読みしてる人が大勢いるのは納得できないとお思いになるかもしれないが、事情が事情だけに、どうかご理解いただきたい。

 それと、著者がサポートメンバーの皆さんにかわって言いたいのは、釣りを仕事にしてお金を稼いでる人がBassingかわら版を見てるんだったら、ちゃんとサポートメンバーになるのが自分達のお客さんに対する最低限のマナーだということである。そんなことは何も考えず、サポートメンバーでもないのにBassingかわら版の情報を仕事に利用したり、メディア関係には無断転載するようなとんでもない輩がいる。業者やメディアがそんなレベルの低いことばかりやってるから、琵琶湖の問題がこんなにひどいことになったのではないか。そのあたりのことも含めて、釣り関係のメディアについては改めて書きたいと思っている。これって、けっこう覚悟しないといけない人が大勢おられるんじゃないだろうか。まあ、そのときをお楽しみに……。

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